2017年9月10日日曜日

Jean - Pierre Serre Cours d'arithmétique

数学科に進学すると、代数では群・環・体、幾何では距離空間や位相空間といった抽象的概念について学び、解析では解析関数などを学ぶ、数論というと、整数を扱うので、代数をイメージする人も多いのではないかと思うが、実際には、使えるもは何でも使おうという感じで、代数、幾何、解析の様々な理論を用いて研究されている。本書は、上で述べたような抽象概念や理論を一通り学び終えたところで、実際にそれが数論でどのように生かされているかを知るのにとても良い本である。扱っているテーマはp進数、2次形式のHasse原理、ディリクレL関数と算術級数定理、保型形式、\theta関数と多いが、非常に簡潔かつ明快に解説されていて分かりやすい。これらは、いずれも現代の整数論の研究に繋がる重要なテーマについても、それについて学びたい人が最初に読む本としてもお薦めである。
この本の前半は、p進数とその最初の興味深い応用例である2次形式のHasse原理(局所・大域原理)に割かれている。p進数は、数論以外の人にはあまりなじみがない概念ではないかと思うが、数論においては、非常に基本的かつ重要な概念で至る所に現れる。体系的にp進数を扱うとなると、より一般に局所体という枠組みでとらえることにより、敷居が高くなってしまうが、本書ではp進数のみに限定し、その代わりにp進数の応用に焦点をあてることにより、p進数に親しみやすくしている。
有理型関数は、複素数aの周りでLaurent級数\Sigma_n\gg-\infty a_n(z-a)^nに展開することにより、aの周りでの振る舞いを調べられる、p進数は、有理数に対して素数pの「周り」で「Laurent展開」の類似を考え、有理数や有理数係数の方程式の素数pでの振る舞いを研究しようとして出てきた概念で、19世紀の終わり頃ヘンゼル(K.Hensel)により導入された。実際Laurent級数に似て、p進数は、\Sigma_n\gg-\infty a_np^n
(a_nは0以上p-1以下の整数)という無限和の形でただ一通りに表される。すべてのLaurent級数が\mathbb{C}\cup\{\infty \}上の有理型関数を定めるわけではないことと類似して、有理数ではないp進数はも無数にある。
さて上に書いた無限級数を素朴に実数の世界で考えると明らかに収束せず意味を持たない。p進数の世界では数の「大きさ」が実数の世界とは全く違っていて、nが大きくなるほどp^nは小さくなっている。より具体的にいうと、有理数rはr=\pm\frac{a}{b} p^m(a,bはpで割りきれない正整数、mは整数)の形にかけるが、p進数の世界でのrの(p進数) 絶対値|r|_pはp^-m
となっている。例えば3進数の世界では1+3+3^2+3^3+\cdots+3^nと-\frac{1}{2}の差\frac{3^n+1}{2}の3進絶対値は3^-n-1
であり、従って無限和\Sigma_n\geq 0 3^nは-\frac{1}{2}となる。
このようにp進数の世界は一見奇妙ではあるが、二つのp進数a,bの距離を|a-b|_pと定めると、これは位相空間論で学ぶ距離の公理をみたし、従って距離空間の一般論が適用できる世界となっている。実数と同様に、p進数でもCauchy列はかならず収束する。このため方程式の解を逐次近似で求めることができる。例えば、実数値関数の零点を逐次的に求めるニュートン法は、p進数でも用いることができる。このことは、代数方程式のp進数解を調べることは、有理数解よりもやさしい。
もし実数解あるいはある素数pでのp進数解がないことが分かれば、有理数解がないことが分かる。この逆が成り立つ時Hasse原理が成り立つと言われ、2次形式の零点については成り立つことが本書で紹介されている。p進数での2次形式の零点の存在は平方剰余記号を用いて判定でき、その帰結として、有理数での零点の存在の判定法が得られる。応用としては、例えばすべての正の整数は4個以下の平方数の和でかけるというLagrangeの定理の証明が与えられている。Hasse原理は一般には成り立たない。つまり実数解、p進数解はあるが、有理数解はないことがある。この種のずれは数論の興味深い研究対象の一つとなっている。

「楽器の王」オルガンとモーツァルト

1999年8月27日、大阪いずみホールでは、年二回の「パイプオルガン・シリーズ」の一環として「美しきモーツァルト」というコンサートが開かれた。モーツァルトのオルガン曲のみを特集する企画で、出演者は井上圭子さんであった。 モーツァルトのオルガン曲のみによるコンサートはめずらしく、...